Last updated: December 10, 2002

『通訳・翻訳ジャーナル』 2002年3月号

日本通訳学会特別企画
通訳の世界を広げる
現代通詞考

第11回 ビジネス通訳の現状と課題 (注)

Michael Gurner (ガーナー, マイケル)
南オーストラリア出身、ビジネス通訳者
日本通訳学会 編集委員会委員

はじめに

ビジネス通訳市場と経済情勢との密接な関係がある事は言うまでもないが、経済に限らず、国際的な事件といった突発的な出来事にも大きく左右される事がある。その一例としては今年9月に起きた米国多発テロ事件がある。事件直後から来日する事を予定していたビジネスマンが様々な理由で来日しなくなった結果、通訳者への仕事の発注のキャンセルが相次ぎ、一般ビジネス通訳者は目前の激減するワークオーダー量に不安を隠せなかった。ビジネス通訳者として、如何にこのような苦境を乗り切り仕事の量を維持するかという事が今後も残る大きい課題の一つである。また、目に付く傾向として、会社側は優れた言語力や高度な通訳術だけでなく、需要の高いコンピューターやIT関連分野の垂直知識や通訳サービスの付加価値提案も要求しつつある。現代ビジネス通訳者にとって避けられない、様変りして行く環境に順応する力を持つことが大切である。

ビジネス通訳の現状の焦点

IT分野
前例のないスピードで情報技術が他国の企業に普及している中で、日本では企業レベルのIT応用力はまだ低いが、グローバル化の進歩やビジネス効率化の改善の動きがあり、今後一般企業における情報技術の利用が増々増えると言えるのでしょう。企業がITをどのように活用して行くかという戦略を策定する延長線上で会議の内容が高度化し、通訳者に要求されるレベルが高くなるであろう。IT知識の必要性が今後のビジネス通訳業界のキーワードとなり、情報通信、ネットワーク、開発、運用等のIT分野に対しての専門知識がより要求されるだろう。

厳しい現状
組織のスリム化やコスト削減処置を推進する会社が徐々に増え、通訳者に対する雇用対策はこの数年間で変化してきている。それを踏まえて、ビジネス通訳者がもっとも懸念している事は:

この数年間で特に目立つようになってきているのは通訳者の雇用における企業のコスト節約対策である。従来は同時通訳者が3人必要だった仕事を2人や1人に削減したり、1人ではウィスパリングは機械がなければ一人に対してしか出来ないにも関わらず、複数を相手にする通訳が強要される。また、人数が足りないために1人の労働時間が増、休憩時間が短くなることや、事前の打ち合わせや資料がない上、社内用語を使うお客さんもいるという通訳者からの不満の声もあがっている。また、社内通訳の環境で起きている問題として、社内のお客さんが外国のメンバーと直接顔を合わせずに、電話会議を設けて短い期間と安いコストで会議を開催している企業が見られる事。社内通訳の場合は基本的に長い期間(1-2年)お客さんと通訳者が一緒に仕事をしていかなければならない。軋轢を回避するため、お客さんの要求に対して迎合しようとする通訳者もいる。お客さんの中には逐次通訳では対応が困難である電話会議を何とか忠実にウィスパリングで対応としている社内通訳者の負担を考えず、長い時間通訳を要求され、その上事前準備無しで専門用語を突然使う方もいる。また、要点だけの通訳を要求するお客さんもいるが、本来は、要点だけを訳すというのは通訳者の仕事ではない。何故なら、そのような依頼を承諾する通訳者は必要以上に責任を持たされ、場合によってその会議内容から情報漏れがあり、通訳者はお客さんからの信頼を失うことがあると考えられる。このような環境では通訳者の成果は当然落ちるという不条理の状況に成りかねない。

付加価値サービスの時代
付加価値という概念は他の業界では普及しているが通訳の分野ではあまり耳にしない言葉なのだ。しかし通訳でも最近付加価値サービスが要求されるのは事実。また上級通訳者が必要にも関わらず、経費を節約するために中級通訳者を雇って、その上低格で質の高いサービスを期待する会社もある。企業の合併買収や規制緩和、政治、ビジネス等の日本と他国との活発な交流が増えていることから英語に堪能なビジネスマンが増え、通訳者と違って、彼らは実際に会議にも参加できるメリットがある事から、ビジネス通訳者が提供するサービスにどのように付加価値を付けて提供すればいいかといったことも通訳者を悩ませ始めている。問題の一つとしては、通訳者が通訳以外の仕事をしてはいけないという考えがある。例えばNAATI 〔オーストラリア翻訳・通訳者資格認定機関〕の通訳者倫理にはこのように記述されている

Interpreters and translators shall not voice an opinion, solicited or unsolicited, on any matter or person in relation to an assignment1)

日本の通訳業界には直接適用されない要求が、日本でも注目されるべきかもしれない。 また商談・交渉通訳や企業内通訳の場で最近通訳以上を求めるお客さんも少なくない。それにしても、通訳倫理に反しない付加価値サービスの提供方法はある。それは会議の事前打ち合わせの時である。多くの通訳者は初めてのお客さんに通訳者の役割や注意点を説明していない。お客さんが通訳の仕事を理解してもらえれば、お客さんが無理な要求をしないはず。それに徹底的に事前準備をして、異国間コミュニケーションの観点からお客さんにアドバイスをすれば、お客さんが満足するサービスの提供が可能であり、信頼を獲得できるだろう。

前向きなマインドセット!
現在のビジネス通訳環境は理想的な環境からは程遠いが、上記の事実は無視できないのである。落ち込んだ状況が更に悪化するのをただ見つめているだけではプロの対応手段とは言えない。難題がたくさんある中で、前向きに諦めないのが大切なマインドセットである。上記の問題解決に関してはお客さんとのコミュニケーションを改善することで多くの問題は解決できるでしょう。必要なのは通訳者・派遣会社とお客さん間の問題意識昂揚である。
 

[参考] The National Accreditation Authority for Translators and Interpreters. (1995. Code of Practice. Pg5; Impartiality.

[編集注] ご本人のご希望により、日本語で執筆された原文のまま校正を加えずに掲載しています。
 

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[執筆者プロフィール]  Michael Gurner: 佐賀県に一年高校留学し、帰国後通訳ボランティアとしてアルバイトをしながら南オーストラリア大学:人文・社会学部にて豪州・アジア政治・文化を専攻。アデレード大学で文学学部日本語学科にて日本語を専攻 B.A Liberal Studies を取得後、日本とオーストラリアにて観光業の営業及びマーケティング関係の仕事をしながら・通訳及び翻訳経験を積み上げ、現在石油業界向けIT会社にて社内通訳に就業している。
 


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